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仙台高等裁判所秋田支部 昭和45年(ネ)96号 判決 1971年4月14日

控訴人 長谷川喜右エ門

被控訴人 国

訴訟代理人 宮村素之 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、全四四万三、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年一一月一九日から右完済に至るまで年五分の割合による全員の支払いをせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、左記のとおり附加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

一、控訴人は、控訴人が多額の費用と多くの日数をかけて訴外斎藤修所有の不動産に対して強制競売の申立をしたのにかかわらず、被控訴人は控訴人のこの犠牲において配当金全額の配当を受けたものであつて、正義の観念に反する、述べた。

二、被控訴代理人は、訴外斎藤修の本件譲渡所得税は国税通則法一五条、一六条によつて同人の代理人斎藤均が所得税確定申告をしたときに発生した、と述べた。

三、<証拠関係省略>

理由

一、控訴人が訴外斎藤修に対する青森地方裁判所弘前支部昭和四三年(ワ)第二二号貸金請求事件の仮執行宣言付判決の執行力ある正本に基づき、同人所有の不動産に対し強制競売の申立(同支部昭和四三年(ヌ)第三四号)をし、昭和四三年六月一五日競売開始決定がなされたこと、被控訴人が、右斎藤修において昭和四二年度の譲渡所得税四四万五、〇〇〇円の確定申告をしたので同人に対し同額の国税債権を有すると主張して、昭和四三年六月二四日右強制競売事件の配当金について交付要求の申立をしたこと、被控訴人が、昭和四三年一一月一八日午前一〇時の右強制競売事件の配当期日において、配当金四四万三、〇四五円全額の配当を受けたので、控訴人が、斎藤修に対して有していた金六〇万円の債権についてなんら配当を受けられなかつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、被控訴人が訴外斎藤修に対して有していたと主張する国税債権の存否について検討するに、<証拠省略>を総合すれば、斎藤修は、昭和四二年四月一日から同年一一月一五日までの間にその所有にかかる田畑、宅地および建物を合計約七〇〇万円で第三者に売却したことが認められて、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、同人は昭和四二年度において右売却代金から売買に要した費用および特別控除額の合計額を控除した金額の譲渡所得があつたものというべきである。

控訴人は、斎藤修は右売却代金をすべて債務の弁済に充てたから同人に譲渡所得はなかつた旨主張するが、所得の使途いかんは同人の譲渡所得額になんら影響を及ぼすものではないから、右主張は採用の限りではない。

三、<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、弘前税務署では、青森地方法務局弘前支局から送付されて来た資料に基づいて昭和四二年中に訴外斎藤修に譲渡所得があると考え、昭和四三年三月ごろ同人に納税相談のため来署するよう通知した。偶々同人は出稼ぎに赴いて不在であつたので、同人の長男である均(当時三四才)が同月七日右税務署に出頭したが、課税の対象となる不動産売買に関する資料を持参しなかつたので、右税務署資産税係員の星野清より資料を持参して再度来署するよう求められて、その日は一先づ帰宅した。そして、均は、同月一五日、不動産の売買契約書、メモ等を持参して税務署を訪れ、右星野に対し修の代理人として出頭した旨申し述べて資料を提出した。そこで、星野は、均から提出された資料および同人の説明に基づいて修の昭和四二年における所得金額、控除額、課税金額および税額(金四四万五、〇〇〇円)を算出して昭和四二年分所得税の確定申告書<証拠省略>にこれらを記載し、申告書の扶養控除欄は均をして記載せしめた。そして、星野が、均に対して申告書の記載内容を説明して提出を求めたところ、同人は、これを承諾し、申告者の住所氏名の記載を星野に依頼し、同人が記載した申告者斎藤修という氏名の右横に指印を押捺したうえ申告書を星野に提出した。以上の事実を認めることができ、<証拠省略>中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみれば、斎藤均は、弘前税務署に対し斎藤修の代理人として昭和四二年分所得税の確定申告をしたものというべきである。

四、よつて進んで、斎藤均に斎藤修の代理人として同人の昭和四二年分所得税の確定申告をする権限があつたかどうかを検討してみるに、<証拠省略>によれば、均は、修の長男として同人と生計をともにし、同人が借財返済のため昭和四二年中に所有の土地家屋を売払つて同年一二月ごろ出稼ぎに出た際、同人から留守を託され、家計の維持はもとより残債務の整理、納税に関し官公庁との折衝、申告、納入手続等一切の事務処理を委任されたことが認められ、原審証人斎藤均の証言中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実に徴すれば、斎藤修は出稼ぎに出発するに際し、その長男である均に対して、本件譲渡所得税の確定申告をするよう特に指定して委任したとはいい難いが、留守中における一切の事務処理を委任したものというべく、従つて右確定申告も均の包括的な代理権限の範囲内に属する行為というべきである。

五、果してしからば、昭和四三年三月一五日斎藤均が斎藤修の代理人として昭和四二年分所得税の確定申告書を弘前税務署に提出したことによつて、国税通則法一六条の規定に基づき修の昭和四二年度における所得税額は金四四万五、〇〇〇円と確定したものであるから、被控訴人が、本件不動産強制競売事件において右金額の配当要求をしその配当手続で控訴人の一般債権に優先して配当金四四万三、〇四五円全額の配当を受けたのは、国税優先の原則を定めた国税徴収法上当然の措置であつて、不当利得といえないのはもとより、控訴人主張のごとく正義の観念に反するものということもできない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから失当として棄却すべく、控訴費用の負担について民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 恒次重義 柴田久雄 横畠典夫)

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